社会福祉法人会計の
福利協会等の退職共済預け金に関する仕訳について


重要ポイント


 福利協会等の退職金共済制度は、税法上の問題[*1]で、次のように指導されています。

  • 法人の負担分は、預け金として資産計上し、かつ当年度の損金として事業活動収支計算書にも計上する。
  • 退職金の支給は、福利協会等から一旦法人が退職金を受け入れて、法人から退職者に退職金として、支給する。


【補足】
[*1]
 このような手続きを踏む理由は、税務上次の問題を回避するためです。

  • 退職者が福利協会[*2]等から直接、退職金を受け取ると、退職金一時所得では無く、通常の一時所得と見なされる危険があること。
  • 法人の負担分が「みなし給与」と、みなされて源泉税がかかる危険があること。


[*2]
(佐賀県の峰公認会計士さんからの補足コメント)
  福利協会等が、

  「退職金共済事業を主たる目的とし、
  一定の要件を備えているという税務署長の承認を得ていないため、」

  当該団体から受ける一時金が退職金に該当しないのだと思います。

  (詳しく言えば「退職手当等とみなされる一時金」に関する

   所得税31条1項5号に規定する一時金に該当しないということ)

 

”退職共済預け金”を資産計上する方法


 退職共済預け金を資産計上する方法は、次の3つの方法が考えられます。

  1. 退職共済へ拠出した金額を、退職給与引当金と退職給与預け金として計上する。
  2. 退職共済預け金は拠出した金額と同額を計上して、退職給与引当金は退職共済から年度末に示されるその年度の期末要支給額を計上する。
  3. 退職給与預け金も退職給与引当金も、その年度の期末要支給額に一致するように仕訳を行う。

 上記1の方法は、多くの社会福祉法人で行なわれている会計処理です。
 その理由は、法人の資産として計上するものの実質的には共済会の退職制度への拠出金としての意味合いでありますので、この方法を行えば、積立時において法人の繰越収支差額は期末要支給による影響を受けません。ただし、退職金の支給時には、積立額と支給額の差を雑収入または雑費による修正が必要になりますが、引当金戻入と退職金とのトータルでは、法人の繰越収支差額には影響はありません。


 上記2は、退職共済預け金は、退職共済への拠出額を把握し、退職給与引当金は退職給付制度に基づく会計期末の要引当額を把握することが出来ます。欠点として、退職共済預け金と、退職給与引当金の額が不一致になりますので、事業活動繰越収支差額にもその差額が計上されます。(外部要因による影響)

ただし、この外部要因による影響は退職時には清算されます。


 上記3は、期末要引当額と同額を退職共済預け金として計上しますので、毎年の計上においても、退職金を支給する年度においても繰越収支差額には変化ありません。この仕訳事例は今のところあまり見かけませんが、上記1と2の長所を取り入れたもっともわかりやすい方法ではないかと考えます。何よりも退職時の退職金支給の仕訳が非常に簡単になります。



注)退職共済に拠出する金額は法人から外にお金が出ますので当然ながら繰越収支差額は変化します。上記説明で“繰越収支差額に影響”とは、外部要因による収支への影響と云う意味です。


仕訳について


注)
以下の説明には個人の負担分は省略します。
個人の負担分は次のような仕訳になります。
  現金預金   5,000 / 預り金  5,000  徴収時の仕訳
  預り金    5,000 / 現金預金 5,000  拠出時の仕訳

 

 

退職共済預け金と退職給与引当金を同額計上する場合(1の方法)

全社協ではこの方式で指導されていますので、全国的にはこの方法が一番多いと思われます。

 

【退職共済積立時】

毎月の経費計上時の仕訳

例)法人負担分が5,000

借方

 

貸方

 

退職共済預け金

5,000

普通預金

5,000

退職給与引当金繰入

5,000

退職給与引当金

5,000

 

【退職金支払時】

退職金給付額が積立額よりも少ない場合

 例)法人積立額1,500,000円 実際の退職金支払額 1,200,000円の場合

借方

 

貸方

 

普通預金

1,200,000

退職共済預け金

1,200,000

雑費

300,000

退職共済預け金

300,000

退職給与引当金

1,500,000

退職給与引当金戻入

1,500,000

退職金

1,200,000

普通預金

1,200,000

退職金給付額が積立額よりも多い場合

 例)法人積立額1,500,000円 実際の退職金支払額 1,700,000円の場合

借方

 

貸方

 

普通預金

1,700,000

退職共済預け金

1,500,000

 

 

雑収入

200,000

退職給与引当金

1,500,000

退職給与引当金戻入

1,500,000

退職金

1,700,000

普通預金

1,700,000

注)雑費や雑収入で、一見法人の収支差額が変化するように思えますが、退職金と退職給与引当金戻入を合わせてみると、収支差額には影響していません。

 

 

 

退職共済預け金と退職給与引当金が同額でない仕訳(2の方法)

積立時も退職金支給時にも法人の本来の事業活動繰越収支差額が変化します。

 

【退職共済積立時】

毎月の経費計上時の仕訳

例)法人負担分が5,000

借方

 

貸方

 

退職共済預け金

5,000

普通預金

5,000

退職給与引当金繰入

5,000

退職給与引当金

5,000

 

年度末の仕訳

 例)共済会からの通知で要支給額が1,000円少なかった場合(多い場合は繰入)

借方

 

貸方

 

退職給与引当金

1,000

退職給与引当金戻入

1,000

注)法人の事業活動に関係しないこの金額分が変化します。

 

【退職金支払時】

退職金給付額が積立額よりも少ない場合

 例)法人積立額1,500,000円 実際の退職金支払額 1,200,000円の場合

借方

 

貸方

 

普通預金

1,200,000

退職共済預け金

1,200,000

雑損失

300,000

退職共済預け金

300,000

退職金

1,200,000

普通預金

1,200,000

退職給与引当金

1,200,000

退職金

1,200,000

退職金支払額>積立額

 例)法人積立額1,500,000円 実際の退職金支払額 1,700,000円の場合

借方

 

貸方

 

普通預金

1,700,000

退職共済預け金

1,500,000

 

 

雑収入

200,000

退職金

1,700,000

普通預金

1,700,000

退職給与引当金

1,700,000

退職金

1,700,000

注)法人の事業活動に関係しない雑損失が当年度に発生します。ただし、積立期間全体を通しては相殺されるで問題はありません。

 

 

 

退職共済預け金、退職給与引当金を期末要支給と同額にする仕訳(3の方法)

退職金給付制度に基づく引当金の計上が出来て、法人本来の繰越収支差額にも影響がなく、退職時の仕訳も積立額と支給額の違いを区別することなく仕訳が出来ます。

 

【退職共済積立時】

毎月の経費計上時の仕訳

例)法人負担分が5,000

借方

 

貸方

 

退職共済預け金

5,000

普通預金

5,000

退職給与引当金繰入

5,000

退職給与引当金

5,000

 

年度末の仕訳

 例)共済会からの通知で要支給額が1,000円少なかった場合(多い場合は繰入)

借方

 

貸方

 

退職給与引当金

1,000

退職共済預け金

1,000

 

【退職金支払時】

退職金給付額と退職共済預け金・退職旧と引当金が同額であるので、拠出額と退職金給付額が多くても少なくても次の仕訳のみ

 例)法人積立額1,500,000円 実際の退職金支払額 1,200,000円の場合

借方

 

貸方

 

普通預金

1,200,000

退職共済預け金

1,200,000

退職金

1,200,000

普通預金

1,200,000

退職給与引当金

1,200,000

退職給与引当金戻入

1,200,000

注)この方法では、退職時に雑費や雑収入を使うことがありませんので、わかりやすい仕訳になります。

 

 

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