退職共済に係る会計処理について

 

 

退職共済の退職金は法的な退職制度ではないために、退職共済から退職者に直接退職金が支給されると、退職金ではなく一時所得とみなされる危険があります。

これを回避するために、共済への拠出金は“資産”と“引当金”に計上して、退職時に法人を通して退職金が支払われるような会計処理がおこなわれています。これらの処理をめぐって、次の2点について見解が分かれているようですので、これらの問題を整理してみました。ご参考ください。

 

A 退職共済預け金・退職給与引当金の計上額をどうするか

B 退職金支給時に事業活動収支計算書に退職金を計上するかしないか

 

 

A 退職共済預け金・退職給与引当金の計上額はどうするか
次の3通りの考え方がありす。

 

退職共済預け金の額

退職給与引当金の額

共済に預け入れた額と同額にする

共済に預け入れた額と同額にする

共済に預け入れた額と同額にする

要支給額と同額にする。

要支給額と同額にする。

要支給額と同額にする。

補足)

·   要支給額は、毎年度末に退職共済会から計算された金額が通知されます。

·   イの仕訳は、共済に預け入れた額と同額を毎月計上します。

·   ロとハの仕訳は、共済に預け入れた額と同額を毎月計上して、年度末に修正仕訳を行う方法が一般的ですが、資金の動きの無い“退職給与引当金”は年度末に一括計上する方法もあります。

 

それぞれの長所と短所

イの方法

長 所

·   共済への“預け金”をそのまま資産計上及び引当金計上するために分かりやすい。

·   退職金の支給時にも退職金=退職給与引当金戻入+益金(又は△損金)となるので、退職時の繰越収支差額は法人本来の繰越金に影響しない。

短 所

·   退職給与引当金は、退職共済預け金と同額になり、法的に定義されている“退職給与引当金”とは異なる性格を持つことになる。(資産見返科目となる)

 

ロの方法

長 所

·   退職共済預け金は法人が拠出した金額となり、退職給与引当金は共済で計算された退職金の要支給額となるので、両者の金額が貸借対照表で把握できる。

短 所

·   退職金と退職給与引当金の取崩額が同額になる利点があるが、退職時の預け金の取崩収入とは不一致となるために、その差額分は当年度の損益となり法人本来の活動収支差額に影響する。

 

 

ハの方法

長 所

·    “退職共済預け金”と“退職給与引当金”は期末退職金要支給額と同額となるためにわかりやすい。

·   そのため、退職金の支給時には、雑費または雑収入による調整が必要ないので、仕訳も簡単になり、また[]と同様に法人本来の事業活動の繰越金にも影響しない。

短 所

·   “退職共済預け金”は拠出した金額ではなく、要支給額で時価修正した金額となるために貸借対照表上では、拠出額が把握できない。

·   ただし、間接法で預け金の評価損益金をあらわすとこの欠点は解消することも可能

 

 

 


 

B 退職金支給時に事業活動収支計算書に退職金を計上するかどうか

次の2通りの考え方があります。

 

事業活動収支計算書の扱いの相違

純額集計の方式

退職金と退職給与引当金を相殺させるので、事業活動収支計算書には退職金は計上しない。

総額集計の方式

退職給与引当金を一旦収入として戻し入れて退職金を支給するので、事業活動収支計算書にも退職金が計上される。

補足)

·   両方法とも退職金と預け金の間で差異がある場合は、雑収入または雑費で修正します。

 

それぞれの長所と短所

ニの方法

長 所

企業会計等で行われている方法であるので、一般的には馴染みやすく、形式的な益金と損金の計上が排除できる。

短 所

事業活動収支計算書には退職金が計上されない。そのため資金収支計算書の退職金支出と事業活動収計算書の退職金と金額が不一致となる。

 

ホの方法

長 所

社会福祉法人会計では基本的には財務3表ともに総額集計を行う会計が行われているために、他の仕訳との比較で違和感のない会計処理が出来る。

また、資金収支との連携も分かりやすい。

短 所

企業会計からみると、馴染みにくい会計処理に見える場合もある。特に退職給与引当金と退職金は経費の二重計上と見間違えやすい。

補足)

 ある県社協の指導では、「退職金を事業活動収支計算書に計上するソフトもあるが明らかに誤りであり、ソフトの開発元に尋ねるように」との説明がされています。これは、ホの方式が間違いであるという考えでありますが、退職給与引当金繰入は、退職給与引当金戻入で戻して、この収入原資により退職金を法人の経費として支払っているものであるので、決して経費の二重計上にはなりません。